登山口観察学入門
目次

File No.014

 400億円の登山口


行き止まりの土平までは、つづら折りの道が続きます。
確かに展望はいい。…でも、それだけ



土平のゲート。この先は通行禁止です。ゲートの左右も隙間なくガードされ、一切進入を認めないという道路管理者の意志を感じさせます

   
 みなさんは、「塩那道路(えんなどうろ)」という名前を聞いたことがあるでしょうか。栃木県那須塩原市にある県道ですが、もともとは昭和37年に塩原と那須を結ぶ「塩那スカイライン」として計画された観光道路でした。未舗装のパイロット道路は貫通しているものの、その後、計画は凍結され、現在は山麓の中塩原地区から延々と上り坂を進んだ8kmほど先の土平までしか通行できない(しかも冬期と夜間はゲートで閉鎖される)、中途半端な道路です。

 終点の土平が、弥太郎山という山の登山口になっているため、かろうじて弥太郎山を目指す登山者には存在理由がありますが、そうでなければ、せいぜい展望を楽しみにドライブするくらいの意味しかありません。

 この道路にかかった建設費用は、何と約400億円。今も道路の維持管理に年4000万円もかかっているそうです(おそらく通行禁止のパイロット道路区間も含めて)。どこの観光道路でも、あるいは林道でさえ相当な費用をかけて建設しているのは間違いありませんが、それにしても土平に申し訳程度に整備された遊歩道と弥太郎山登山にしか役立っていないわけですから、「400億円の登山口」と揶揄したくもなります。

 問題はそれだけではありません。今はどうか知りませんが、当時をよく知る地元の人は、工事が始まってから塩那道路直下にある沢は、茶褐色の水になり、それはひどいものだったと証言しています。金をかけて自然破壊までしてしまった愚かな計画といえるでしょう。まさに高度成長期と地元選出国会議員が残した迷惑な置き土産です。

 どれほどの愚策か、確かめに行ってみるのもいいかもしれません。地図で見ると、那須塩原温泉郷の国道400号から北に向けて、羊腸のようにぐねぐね続く道がそれです。